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グーグルと節電


【IDF Fall 2006】Google,コンピュータ業界にパソコンの電力効率を高める規格の策定を呼びかけ

当のgoogleの人の発表:

High-efficiency power supplies for home computers and servers,
Urs Hoelzle & Bill Weihl (PDF)

要約:現在のPCは電力の30-40%を無駄にしている。最近はマザーボードの上で電圧変換をしているから、PCの電源は1電圧だけでよい。そうするとidleに近いほかの系統の電力を減らせる。またそのコスト削減分を部品のグレードをあげる事にまで使うことで無駄な電力を1/4に削減できた。この技術をIntelと共に規格化してavailableにするつもりである。

店頭に並ぶのが待ち遠しい技術ではあるけど、今すぐできる事もある。グレードの高い部品を使った電源は高いけど、例えば10%節約できる電源なら100Wで2年使うと、

100W * 10% * 2年 *(20円/kWh)
= 3 506.32511 円 (Google Calculator)

と言う具合に、3000円くらい高めになるくらいなら割にあう。
(ところでこれはGoogle Calculatorで計算したんだけど、こういう具合にすでに日本語化がしてある。)

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「経済学者は進化理論家から何を学べるだろうか」
(Paul Krugman講演録)が面白かった


http://cruel.org/krugman/evolutej.html

さて、進化論の分野でちょっと本を読めば、グールドがこの世界でのジョン・ケネス・ガルブレイスなんだというのはすぐにわかります。つまり、すばらしい書き手で、数式やむずかしい専門用語を使わないので文芸インテリには大人気だしメディアでもひっぱりだこ、という人物ではありますが、残念ながらかれが数式や専門用語といった罪悪に手を染めないのは、かれが同僚たちの上をいっているからではなく、同僚たちの話を理解できないせいらしい、ということです。

うーむ。そうだったのか。知らない事とはいえガルブレイスは素直に偉い人だと思ってました。断続平衡説の方はなんかおかしいとは思ってたけど。

包括適応度というのは、その個体の親戚の適応度の加重平均で、そのときの重みは血縁の近さに比例します (これを別の形で考えると、遺伝子はそれを宿した個体のことなんかおかまいなく、それ自体の適応性を高めようとして広がる、ということになります。

「包括適応度」という言葉の意味というか「利己的な遺伝子」ということばの意味について私は誤解していたようだ。これで誤解が解けた。
さて、面白いのはここから。

進化理論家の一般的な態度は、自然はしばしば驚くような道を見つけて、小さなステップを重ねたのでは到達できないと思われていたところにも行ってしまうようだ、ということです。

恐らくこれは何万次元という非常に自由度の大きな系では必ず成り立つんだと私は思う。
この事実に触発されて、私は社会の改良も
プログラムの改良も漸進的過程でよいと考えるようになった。

進化理論を読んでわたしが見つけた真に驚異的なことは、進化が継続的なプロセスだなんてほとんどだれも言わない、ということです。むしろ、人々は現実に見えているものを完了したプロセスの結果として説明しようとします。

進化論が、進化の動的過程を議論しないで、進化の安定点について議論していると言うことね。
そしてこの後の部分で安定点(=均衡)がフィクションであるけど分かってやっているという話がやってきて、そのあとこう来る:

この種の便利なフィクションのでっちあげは過去のもので、いまや複雑な動学をコンピュータシミュレーションで観察できるじゃないか、と言う方もいます。でも、その手のことをやってみた人なら——このわたしも大量にやってきました——いずれは、最大化と均衡に基づく紙と鉛筆の分析というのが、いかにすばらしいツールであったかというのを認識するに到ります。

こういう所も物理学と同じだ。
物理学も、新しい問題に出くわしたら、まず安定点や可解になる点を探す。それは余りにも限定されていて常に現実を反映しているとは限らないことは承知の上で。次に安定点の周りに摂動をする。
それが出来たら、simulationをやるけど、やみくもにやると意外なほどに得るものは少ない。

進化理論家たちは、根本的には安全に最大化や均衡を想定できないような枠組みを持っていても、最大化や均衡をモデル化のための道具として、便利に使うんです——世界についての便利なフィクションとして、複雑さに切り込むための道具として。

これも物理と同じ。やっぱり、きちんとした学問っていうのはみな同じなんだなあ。

誤植リスト:
何十万世だも
ヘビが最も手近なヘビを捕まえて

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ゼータ関数は量子カオスに関係してると言うけど…

リーマンのゼータ関数が量子カオスに関係しているという説がある。

リーマン予想とはゼータの零点が Re s = 1/2 の線上にあるという事だ。もしゼータの零点がみな何らかの演算子の固有値になっていることが証明できて、その演算子が1/2+i (エルミート)であることが言えればリーマン予想が証明できる。このエルミート演算子から予想に挑むと言うのは、幾つかある挑戦ルートの中でもメジャーなもののようだ。

で、この仮想の演算子が持つべき性質がいろいろと研究されている。で、この演算子の固有値分布がランダム行列の固有値分布に似ていることがオドリッコらにより示されている。また演算子の性質がちょうど量子カオス系の性質と似ているということが、マイケル・ベリーによって指摘されている。らしい[1]。

このように量子カオスと関係があるらしいと言うのだけど、以下のように考えるとなにか信じがたい感じがする。リーマンゼータ関数は
  ζ(s) = Σn=1n-s
だから形式的に
  Σn=0e-nt = (1+1+1+...) - (1+2+3+...) t + 1/2! (1+22+32+...) t2- ...
   = ζ(0) - ζ(-1) t + ζ(-2) t2/2!-...
あるいは
  Σn=0 e-n2t = (1+1+1+...) - (1+22+32+...) t - ...
   = ζ(0) - ζ(-2) t + ζ(-4) t2/2!-...

という具合に母関数はえらく簡単である。で、左辺の
  Σn=0e-nt
は単に調和振動子系のカノニカル分布の分配関数だし
  Σn=0 e-n2t
は単に有限幅で高さが無限の井戸型ポテンシャルの中の粒子のカノニカル分布の分配関数であって、カオスなんて御大層なものの臭いがしないので、カオスとか言われると不思議だ。

統計力学系だから、熱的現象だから、複雑なことが起こっているんじゃないの?というのも違う。単なる量子力学でも現れる。無限の深さの井戸型ポテンシャルで空間を x = -1から x = 1までに限る。そこに V(x) = v δ(x)というデルタ関数状のポテンシャルを加えると〈n'|V|n〉= 1 (ただし、n, n'は奇数)だからこの系のプロパゲータは
  e-iHt= e-iH0t + ∫dt1e-iH0(t-t1) (-iV) e-iH0t1
   + ∫dt2dt1e-iH0(t-t2)(-iV) e-iH0(t2-t1) (-iV) e-iH0t1+ ...
で、この二次以降の項に登場する
  V e-iH0 (t2-t1) V

  v2Σn:奇数e-in2(t2-t1)
となる。これってほとんどさっきの母関数(θ関数)だ。奇数であることはちょっと違うけど、
  ζ(s) ×(1-2-s) = Σn:奇数n-s
だから同じようなものだ、たぶん。

つまり、統計力学とか関係なく、単なる可解な力学系にすらあらわれるわけだ。まあ、元から整数スペクトルのMellin変換に過ぎないんだけど。それが何でそんなに複雑なのだろうねえ。

[1] 私のゼータ関数に関する知識は所詮「素数に憑かれた人たち」(日経BP, 2005)の受け売りです。20章参照。

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